ふつうの場合は依頼者に半分程度は渡すのだが、自己競落が目当ての場合、「自分で落とすから、O氏さんが追い出されることはない」という約束が破られたことになるのだから、立ち退き料はO氏の独り占めとなる。どっちに転んでもO氏が損をすることはない。なかには、ただ単に競売されたことが悔しくて、競落人に嫌がらせをするだけの目的でO氏に占有を頼む人間すらいるのだ。こうなるとカネ目当てではないのだから、家賃もいらず、最終的には立ち退き料も入手できるO氏にとっては実にありがたい依頼といえる。
[参考]
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O氏にこれまでで印象深かった占有例を聞いてみた。すると、返事は意外にも更地の競売妨害を依頼されたことだという。依頼してきたのはパーリーグ球団の元投手だった不動産関係者。名前を聞けば古い野球ファンなら誰でも知っているに違いない。イニシャルはMだ。平成七年の秋、依頼を受けたO氏はさっそく土地の登記簿謄本を取った。場所は大田区田園調布五丁目。謄本には甲区と乙区がある。甲区には所有権に関する記述がなされている。問題の謄本甲区四番目と五番目に記されていたのはどちらも差押えに関する記述で、ひとつは都税事務所、もうひとつはわかしお銀行(旧太平洋銀行)だった。そして後者の申し立てにより競売開始が決定されていた。続いてO氏は乙区に目を移した。こちらには抵当権や賃借権が記されている。いくつもの根抵当権設定とその抹消事実が並んでいるのだが、後半にはやはり銀行の名前が記載されている。当然わかしお銀行だ。根抵当権は限度額九億四千万円。三百二十坪の土地にはふさわしい額かもしれない。いずれにしてもこのままでは土地は取られてしまうし、カネも入ってこない。借金だって消えるわけではない。競売となれば、この土地はせいぜい二億円程度である。